平成十九年(皇紀2667年)を迎えて・・・
「家族の絆に慈愛の心を」           熊野速玉大社宮司  上 野  顯

 謹んで新年の賀詞を奉ります。年頭に際し、本年も皆様の夢が結ばれる実り多き年月となりますよう心よりお祈り申し上げます。
 昨年は、子供が巻きこまれる痛ましい事件が多く起こりました。少しでもこの歪んだ世界をもとに戻すことができないものか。このような願いをこめて、今年はご神木「なぎ」の御弊に寄り添う親子猪を描きました。猪突猛進!突き進む勇気も大切ですが、穏やかな営みの中にこそ幸せの基本があり、家族の絆をしっかりと生活の中心において過ごすことの大切さを祈りこみました。
 日本では子供が生れると初宮参りをして、神さまにお顔を見せて授かった感謝と無事成長を祈り、七五三を迎えると、こんなに大きくなりましたと氏神様にもお喜びいただき、成人すると神前で結婚式をあげて新たな誓いの場としてまいりました。私達は生れたときから人生の大切な節目を迎えるたびに、氏神様や家族、周囲から「おかげさま」をいただき、知らないうちに人を思いやる心が育まれてきたように思います。
 しかし、社会の急激な変化の中で、我が子を慈しみ、成長を喜び、育ててくれた恩に感謝するというごく当たり前の意識が薄れ、代わって「良いことか悪いことか」ではなく「好き嫌い」で判断する自己中心的な考え方が目立つようになってきました。命の大切さや思いやりの心が忘れ去られ、親子の関係だけでなく、子供たちが両親からいただいた大切な自分の命までも断たねばならぬほど、世の中全体が渇ききってしまったように思います。子供は神の子といわれますが、私達に「三つ叱って五つほめ七つ教えて良き人にする」という親の覚悟があってこそきちんと成長してゆくのではないでしょうか。
 私達の祖先は、天に輝く太陽や言いようのない落日の美しさに、また雄大な山や川に、森を渉る優しい風にと、あらゆる自然万物に宿す神の存在を感じ取り、自らの人生もそこに照らして暮らしてきました。難行を続けながらたどり着いた人々を、権力者も社会的弱者も区別することなく、訪れる人全てを「和光同塵」の慈愛をもって別け隔てなく迎え入れてきた熊野信仰は、世界遺産に登録された今日、さらに宗教間の隔たりをも越えて、普く人々の心の渇きを潤す大切な精神文化として見直されています。
 この美しい慈愛の精神に学び、私達が家族の絆と命の尊さを改めて思い起こし、立場の弱い者にも優しく思いやる心が世界中に甦ることを願ってやみません。